柴犬あきとの生活 145
散歩での出来事
家の中で退屈そうにしているあきに声をかけました。
「あきちゃん、散歩行く?」
その瞬間、リビングを駆け回り
「アウーッ!!」
「ワン、ワン、ワン!」
「嬉しいの!分かった、分かったよ。分かったから吠えなくて良いの!!」
一気にテンションが上がり、部屋の中をピョンピョン跳ねながら動いています。
あきは本当に散歩好きな子になりました。
もう玄関に続くドアの前でスタンバイ。
早く外に出たいのに、首輪とリードは一応嫌がるといういつもの儀式?をしてから漸く外へ。門扉の前で今か今かと扉を開けてもらうのを待っています。
3月も後半となり、先日から花の開花が楽しめるようになりました。長い間蕾だった梅も開花しています。
あきが初めて散歩に出た頃はまだまだ冬の公園でしたが、今はもうあちこちに色彩が戻って来ました。そしてあきも散歩する姿が板について来ました。
今日も公園に面した庭で遊ぶ先輩犬Sちゃんのお家の近くにやって来ました。今日も彼女は庭をパトロール中です。
「あきちゃん、Sちゃんだね!」
あきの登場に反応しているSちゃんに気づき、あきはちょっと構えています。
今日はSちゃんの側まで行きたいようで、グイグイ彼女の家に近づいて行きます。
Sちゃんの守る庭は、あきのいる場所から1m以上うえにあります。なので、あきはSちゃんを見上げることしか出来ません。見下ろすSちゃん。見上げるあきちゃん。
Sちゃんは吠える事なく、じっとあきを観察中。
「Sちゃん、こんにちは」
不意に私に名前を呼ばれてちょっとびっくりしたようなSちゃんがこちらを見ました。可愛い顔をしています。
「Sちゃん、この子あきです」
Sちゃんに興味を示しているあきを覚えて貰おうと、親心で思わずあきを紹介してしまいます。
あきは、Sちゃんにもっと近寄りたいようで、届かないのに壁にへばりつきました。
「あきちゃん、ご挨拶したいの?」
見せて、見せてモードになってるあきを仕方ないので抱っこして、Sちゃんが見えるようにしてあげました。Sちゃんは思ったよりも大人しくあきを見ています。これは行けるかもしれない!ともう少し接近。鼻クン挨拶をさせてあげようと近づきました。あきがSちゃんの鼻に鼻をくっつけようとした瞬間、柵越しのSちゃんが
「ウーッ」
唸りました。ああああ。やっぱりそう来たか。歯も剥き出しています。そりゃそうですよね。ここは彼女の縄張りですから。
「あきちゃん、怒られたわ~。ダメだって」
素直にあきを地面に下ろします。
怒られたけど私に抱っこされていたあきは特に怖がる様子もなく、ちょっと後ろ髪を引かれている様子。
「ほら、あきちゃん、行くよ?」
それでもまだSちゃんが気になっています。
「あきちゃん、Sちゃんとは遊べないの。怒られたでしょ?」
どうやらあきはSちゃんが相当好きなようです。
元のアスファルトの道に戻り歩き出そうとした時に、向こうから年配の女性が歩いて来ました。
「可愛いわね~」
公園を散歩中だったようですが、あきを見て近づいて来られました。
「まだ小さいわよね?」
「5ヶ月なんです」
「そうなの。私ね、柴犬を飼ってたんだけど。少し前に亡くなってね。可愛いわ~」
あきは初めて会う人に少し緊張しています。
「犬を飼いたいんだけど、もう年だから飼えなくてね。本当可愛い。抱っこさせてもらってもいい?」
勿論抱っこは良いのですが、女性は杖をつかれていて、一人で歩くのも大変そうで、7kgを超えたあきを抱っこできるようには見えません。
「いいですけど、この子もう7kgあるのでちょっと大変かもしれません」
女性があきに触れようとした瞬間、あきが怖がって避けました。その拍子に転がって砂まみれに。あああ、あきちゃん。。。珍しく怖がってる?
仕方がないので、あきを抱っこして女性が触れるように近くまで連れて行くことに。
「よかったら触ってください」
私の腕の中で大人しくしているあきに女性が触れます。
「ああ。久々に触ったわ~」
そうなんですよね。犬を亡くした後、手触りが恋しくなるんですよ。私も先代犬ナナを亡くしてからあきが来るまで10年のブランクがあり、その気持ちは良くわかります。ナナがいなくなってから数年経った時に、たまたま道で出会ったパグを触らせてもらった時に、ああ、生きてる。と思ったことを思い出します。未だにあきを触っていて、ああ、生きてる。命に満ちている、と思う時が多々あります。
「ああ、可愛いわ。ありがとう。いい子ね」
飼われていた柴犬を思い出しながら、おそらくあきを撫でているのでしょう。
「お名前は?」
「あきです」
「あきちゃん、そうなの。覚えておくわね」
飼われていた犬とあきの事を話します。暫く後、離れ難そうにしている女性と挨拶を交わして散歩を再開しました。
残念ながらその後、この女性とは今の所再会はしていませんが、あきと散歩をしていると、他の方からも犬を飼ってたんだけど亡くなってしまって、と度々声をかけられます。
皆さん、ご自身の年齢と犬の寿命を考えると飼えないと話されています。私たちも、あきを飼い始める時、自分たちの年齢に15年~20年を足して、大丈夫!と思ったので飼い始めました。
今日出会った女性が、あきで少しだけ幸せになってくれたのなら良かったなと思いながら帰路につきました。
あきちゃん、今日は先輩犬に怒られたけど、その後ちょっといい事できたかもね。