柴犬あきとの生活 204
怠惰な午後
あきが夫の不在を良い事に、座椅子の上で伸びています。
先ほどまで舐めていた座面にはシミが出来ています。それにしても、全身伸びすぎですよ、あきちゃん。
「あきちゃん、後ろ足まで伸びてるよ。気持ちいいの?」
何でしょう、この格好。そしてこうして伸びていると長い体です。
尻尾が巻いているところを見ると、眠たくはないようです。
しばらく座椅子でビョーンと寝転がった後、今度はお気に入りのキリンのおもちゃに顔を突っ込み始めました。このおもちゃ、胴体部分が袋になっていて、人間が手を入れて中のクッションを押すと音が出るようになっています。
普通なら手を入れるところにあきは顔を突っ込んでフンフン匂いを嗅いでいます。
顔が取れなくなっちゃったのかと思うほど長時間顔を突っ込んでいます。
一体何をしているのやら。
何ともまったりしたというか、怠惰な午後を過ごしていますね。あきちゃん。
退屈しているようですが、ボールを持ってきて投げて欲しいという事もなく、先ほどから一人でまったり楽しんでいます。
そんなあきの後ろのテレビで、父が犬の特集をみはじめました。犬の犬種の豊富さについての番組です。
うちの子はキリンに顔を突っ込んでいますが、テレビでは次々にいろいろなサイズの犬が登場。ほどなしくして犬の鳴き声がテレビから聞こえてきました。
先ほどまで一人寝そべって遊んでいたあきが急に立ち上がり、テレビの前へ。
何やら考え込んでいます。いつものように、
『鳴き声はするのにどこにいるの?なんで匂いもないの?』
でしょうか。
テレビの下に隠れていると思ったのか、身をかがめて覗き込んでいます。
「あきちゃん、誰かいてた?」
聞かれても振り向きもせず、じっとテレビと台の間を眺めています。
『犬の声がするのに、何で?どこにいるの?』
画面のチワワの前で首を傾げてテレビにかぶりついています。
「ねえねえ、あきちゃん。テレビ。テレビだよ。犬が映ってるだけだよ。いないの」
『なんだか分からないけど、犬いるよね?声がしたもん』
「あきちゃん、居ないから。そこにはいません!」
ようやく台の上からはおりましたが、それでも納得いかない様子。とはいえ、画面に向かって吠えるわけでも飛びかかるわけでもなく、不思議等に眺めるばかり。
しばらく後、飽きたのか再び夫の座椅子の上に。パタっと横になり、座布団を枕に寝始めました。
羨ましくなるぐらい、のんびりした午後です。
でもね、あきちゃん。油断大敵ですよ!
それから1時間後。緊張したあきが獣医さんの待合室に座っていました。
最近あきの右目まぶたに小さな出来物ができました。大きくなってはいけないので、念のため先生に見てもらう事にしたのです。
家でのんびりあっちこっちでこてん、こてん寝ていたあきは、
「出かけるよ!」
と言われて散歩だと思って大喜びだったのですが、気づくと車に乗せられ父に抱きかかえられていて、それはそれはショックだったのです。車に乗せられると、嫌な予感しかないようです(笑)
一人で座っていましたが、次第にいたたまれなくなったようで、父の元に。
あきちゃん。退屈じゃなくなったでしょ?たまには刺激がないとね!
その後、あきは軟膏をもらい、目の腫れは綺麗に治ったのでした。